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東京地方裁判所 昭和32年(ヨ)4033号 決定

申請人 千々岩雄平 外一名

被申請人 本田技研工業株式会社

主文

申請人両名が被申請人に対し各雇傭契約上の権利を有する地位を仮に定める。

申請費用は被申請人の負担とする。

(注、無保証)

理由

一  当事者の求める裁判

申請人らは「被申請人が昭和三二年五月九日附をもつてなした申請人らに対する解雇の意思表示の効力を申請人らが被申請人に対してなす右解雇無効確認の訴の判決確定までの間これを停止する」旨の裁判を求めた。

被申請人は「申請人らの申請を却下する」旨の裁判を求めた。

二  当事者間争ない事実と争点

(一)  被申請人は昭和二三年設立にかかり、本社を東京に、工場を埼玉県大和町ならびに静岡県浜松市におき、スクーター・オートバイ・原動機付自転車・農業用エンジンなどの製作を業とする会社である。

(二)  大和町所在の被申請人会社埼玉製作所に勤務する従業員の大多数は本田技研埼玉労働組合を組織している。右組合は被申請人会社に対して昭和三二年三月二九日より同年四月一四日にわたり争議行為を行なつた。

当時申請人千々岩は右組合執行委員長、申請人井上は同副執行委員長であり、共に被申請人会社従業員であつた。

(三)  被申請人は申請人らに対し昭和三二年五月九日附で懲戒解雇の意思表示をした。

以上(一)(二)(三)の事実は当事者間に争ない。

本件申請における主要な争点は、申請人らが右懲戒解雇を無効と主張し、被申請人はこれを有効と主張して、その効力を争うにある。

(以下、被申請人を会社と略称し、本田技研埼玉労働組合を埼玉労組、本田技研本社労働組合などを本社労組合などと略称する)

三  申請人らの主張する無効理由

申請人らは前記解雇は次の理由により無効であると主張する。

(一)  解雇は不当労働行為である。会社の解雇理由として主張する事実には誇大又は無根の事実があるが仮りにそのような具体的事実があつたとしても解雇に価するものではなく、すべて正当な組合活動である。かえつて会社の側において、争議中団交拒否、支配介入、ロツクアウトその他の挑発行為が存し、争議前から組合活動に対する介入、不利益処遇行為が存する。

本件解雇は申請人らの正当な働合活動に対する不利益処分であつて無効である。

(二)  解雇手続が就業規則、労働協約に違反する。会社就業規則によれば「従業員を……懲戒する場合は本章に定めるところにより賞罰委員会にはかつてこれを行う」との規定があり、賞罰委員会は会社および組合の各指名する各五名により構成され、その決定に対しては会社、組合は各一回拒否権を有するものとされてきた。ところが本件の場合会社は組合側委員を解任して非組合員三名を任命し、これに諮つたもので賞罰委員会と認められない。

またこれは会社、組合間の「組合員を解雇せんとする場合は組合と協議決定のうえ行う」旨の労働協約を無視しこれに違反している。

よつて解雇は無効である。

四  被申請人の主張する解雇理由

被申請人は、解雇は申請人らの違法な行動を理由とするもので不当労働行為ではない、賞罰委員会は諮問機関にすぎず決定機関ではない、申請人主張のような労働協約は存在しない、従つて解雇は無効ではない、と主張する。

被申請人が解雇理由として主張するところは次のとおりである。

前記争議に際し申請人千々岩は埼玉労組執行委員長、申請人井上は同副執行委員長として埼玉労組の最高責任者の地位にあつて右の違法不当な争議の前後を通じ終始その企画、指導、指揮、実行に当つたもので、特に次のような行動があつた。

(一)  無目的、抜打争議

埼玉労組は会社に対し要求項目を示さず、一回の団体交渉も行わずに争議に突入し、しかもその日から入出門手続の蹂躙、残業者追出し、闘争委員全員の職場離脱のような違法行為をしている。このような争議開始に対して会社は回避の方法がない。申請人らは埼玉労組役員ならびに三労組統一交渉委員として交渉の事情に通じていながら、組合を争議に入らせたものである。

(二)  入出門手続の蹂躙

工場管理上入出門は厳重な規律が必要であり、会社は入出門規定を設けて一定の手続(入出門票に氏名目的行先時間を記入し、所属長の検印を受け、出入の際守衛に提出する)を履践させている。組合員は争議中この規定を蹂躙し、作業時間中勝手に作業を捨てて工場を離れ、部外者を多数出入させ、会社は人員及び資材の正確な把握を完全に妨げられた。申請人らはその指導者である。

(三)  メツキ職場の二交替制拒否

メツキ職場は午前七時半より午後三時半までの勤務と午後二時半より同一〇時半までの勤務の二交替制をとつている。組合は争議突入後四月一日より他の職場同様の午前八時半より午後四時半までの就業を指令して会社の命令に従わず、しかも争議終了後も数日間その状態を継続した。申請人らはその最高責任者である。

(四)  ロツクアウト職場不法侵入、占拠

組合の熱処理職場ストにより機械課の操業が不可能となつたので、会社は四月五日機械課につき一日間ロツクアウトを行つた。会社は右措置を組合に通知、組合員に掲示し、大和工場の内部に繩張し保全員を配置した。ところが組合は同日朝九時半頃申請人井上らの指揮で隊伍を組み、保全員を突飛ばし繩張を切つて機械課職場に侵入占拠し、機械課長に「スイツチを入れ機械を動かせ」と強要した。申請人千々岩は企画指導、申請人井上は直接指揮を行つたものである。

(五)  無届の職場離脱、部分スト、デモ、集会

埼玉労組執行委員は争議突入より終了まで無届で職場を完全に離脱し、組合員をして随時職場を離脱させ、許可なく会社施設を利用して集会し、赤旗を立てビラを貼り、工場内デモを行い、社報を一括持出すなど、会社の施設及び作業の管理を妨げた。申請人らはその最高責任者である。

(六)  本社前座り込み、ハンスト

組合は四月一日より本社前空地に座り込みを行い、四月八日より申請人千々岩ら五名がハンストを行つた。このような行為は本社正面を占拠し会社経営の不円滑と破壊的な従業員の存在を印象させ、会社に甚だしい損害を与える。

(七)  残業協定違反

会社の終業時間は午後四時半であるが、協定(当時三月末日まで有効)に基き残業を行つていた。争議に入つた三月二九日組合は機械課の午後一〇時まで残業を了承していた。ところが申請人井上ほか三執行委員は同日午後六時二〇分頃勤務中の残業者を帰してしまつた。右は四月一日に残業拒否指令の発せられたことからみて、組合の機関決定を経ない山猫争議である。もし山猫争議でないとしても協定違反である。

(八)  熱処理職場メインスイツチ切断

組合は四月三日熱処理職場のストを行つたが、申請人井上は執行委員二名と共に現場に赴き、同職場の動力の三〇〇〇ボルト高圧線スイツチを切断した。申請人は組合役員として争議中危険又は違法の行動のないようにする責任があるところ右スイツチは電気係員の外操作を許さぬ危険なものである。かりに同人らの切断したものでなくとも、同人らは切断された電源室前にピケラインを敷き安全確保のために会社の管理者が入るのを妨害した。

五  解雇手続違法の主張に対する判断

申請人らは解雇手続の労働協約違反を主張する。しかし、申請人らの主張する労働協約の存在を認めるべき疎明がない。疎明によれば、かつて本田技研労働組合と会社間に申請人の主張するような労働協約の存在したことが認められるが、右組合は埼玉労組と本社労組とに分れて消滅し、その後数年を経ており、右協定が埼玉労組と会社間の協定として引継がれ有効に存在しているとは認めがたい。よつて協約違反の主張は理由がない。

次に申請人らは解雇手続の就業規則違反を主張する。疎明によれば、就業規則一一章通則一、二に「従業員を表彰しまたは懲戒する場合は、本章に定めるところにより、賞罰委員会改善提案審査委員会等にはかつてこれを行う」「賞罰委員会、改善提案審査委員会その他の賞罰手続については別に定める」と規定していること、賞罰委員会の規定は未定であるが従来は組合の推せんした五名と会社の選んだ五名とが会社より任命され、委員会の審決に反対する側は再審議を求めることができる例であつたことが認められる。そして本件争議開始直後会社は組合推せんの五名を解任して非組合員である職制から三名を任命したことが認められる。従つて本件の審議は専ら会社側の立場より審議されたと推測され、会社組合双方の代表による審議を立前とした従来の例に反するものであつたといわねばならない。しかしながら、賞罰委員会の構成が明定されていなかつたのみならず、就業規則によれば賞罰委員会は諮問機関と定められているので、意思決定機関としてその意思により解雇権が行使されている制度とは認めがたいので、賞罰委員会の構成が従来の例に反しても組合側の意向が正当に反映され得ないというに止まり、このことから直ちに解雇手続が就業規則に違反するものとして解雇を無効ならしめるとは断じ難い。

よつてさらに不当労働行為の主張について判断する。

この点につき申請人らは争議以前から会社が組合活動に対する支配介入並びに不利益処遇をなしたと主張するが、申請人ら主張の事例はいずれも古い事例であるうえ、申請人らと直接の関連なく、これらの事例が存したとしても本件解雇の原因となつたものと認めるのは困難である。疎明によれば解雇の事由は本件争議時における被申請人らの活動にあるものと認めるのが相当である。そこで以下本件争議の概略と、被申請人の主張する争議行為の違法性について判断したうえで、不当労働行為の主張を判断する。

六  争議行為違法の主張に対する判断

当事者間争ない事実並びに疎明によれば、本件争議の経緯の概略は次のとおりと認められる。

昭和三二年三月九日埼玉労組および浜松労組から、同月一一日本社労組から会社に対し各賃金値上を中心とする要求書が提出され、同一二日に会社から交渉の方式について申入があつて、同一三日に三組合は統一交渉委員会を結成し、要求書を提出して交渉に入つた。

そして統一委員会と会社との間に団体交渉が重ねられたが妥結に至らず、三月二八日統一委員会は解散することとなり同日その要求案を撤回して交渉を打切り、以後は各組合で交渉する旨会社に通告した。

埼玉労組は同日「賃上要求の件」につき会社に団体交渉を申入れたので、会社はこれに対し協議の上回答する旨組合に通知した。その間同日中組合は従前の交渉経過に照し平和的接渉による解決の見込ないものとし組合員の過半数の議決によりストライキ権を樹立し、次で翌三月二九日朝同日より争議行為に入る旨会社に通告して争議に入つた。

その後四月九日には埼玉地労委が斡旋に入り、四月一四日に団体交渉が妥結して争議は終了した。

右争議の間にとられた行動は次のようである。

三月二九日午後六時半頃より機械課は執行委員井上、伊藤らの指揮により残業を中止、翌三〇日以降メツキ職場の二交替制勤務を拒否し、四月一日以降一切の残業を否拒し、また同日より三日間鋳造課のストライキ、四月三日午後より二日間機械課及び熱処理職場のストライキが行われた。(会社はこれに対して四月五日に機械課の一日ロツクアウトを行つた。)

また三月二九日より組合執行委員は職場を離れ、一般組合員も随時職場をはなれて、工場敷地内において職場大会、デモを行つたほか、三月三〇日より本社へデモ、四月一日より本社玄関前での座り込み、及び数名の組合員が玄関上の建物で争議の宣伝をなし、四月八日には座り込み者のハンストが行われた。なお争議中通常は会社主張のようになされていた工場入出門手続は守られなかつた。

争議の概略は以上のように認められる。そこで次に会社の違法と主張するところを争議の経過に照らし、判断する。

(一)  無目的、抜打争議について

前記のように埼玉労組は三月九日に賃上要求書を提出し、また三労組統一交渉が行詰つて各労組が交渉することとなつた際も賃上要求について団体交渉を求めているのであつて、再度の要求において具体的な提案はないが、その要求が当初の要求書を基礎とするものであることは交渉の経緯から会社も容易に知り得るところである。従つて本件争議が正当の目的のないものであつて、会社を混乱させることのみを目的とする争議であるというに当らない。

次に争議の予告直後争議行為に入つた点については埼玉労組としては従来の例に照し本社労組、浜松労組の妥結後は要求を通すことが困難と考えその前に要求貫徹の強硬な決意を会社に知らせ団体交渉を有利に進展させる作戦に基くものであることを看取するに難くないので、埼玉労組と会社との妥結が容易に予測できない客観状勢に照し不当に早期に争議行為に突入したと見るに足りない。

よつて右を違法とする主張は理由がない。

(二)  入出門手続の蹂躙について

争議中入出門手続が守られなかつたことは前示のとおりであるが、しかし、職制である所属長の検印を要する入出門手続を争議中も遵守することを求めるのは組合活動を甚だしく制約するものでもあり、争議中右手続をとらぬことをもつて不当な争議行為と認めるに足りない。

(三)  メツキ職場の二交替制拒否について

メツキ職場において争議前は午前七時半から午後三時半までの勤務と午後二時半から十時半までの勤務の二交替制勤務が行われていたが争議に入り他の職場の勤務時間と同じ午前八時半から午後四時半までの一交替制勤務の指令がなされ、争議終了数日後まで一交替の勤務がなされたことが認められる。しかしながら二交替制が本来の勤務であるならば、一交替制の指令は、不就業部分についてストライキの指令と見るべきであり、また勤務時間外の就労指令は勤務命令のない就労と見られるわけであるが、後者については、会社の生産休止の意図に反したりその他就労によつて会社に特別の損害を与えたことの認められない本件においてはこの程度の職場秩序の混乱は争議によるやむを得い事態というべきであり、なお、本件争議終了後も数日間一交替制の状態が続いたことは事実上争議の終了が遅延したと見るべきであつて、この程度の正常勤務の復帰遅延を不当なりとして論議するに当らない。

よつて二交替制の勤務拒否は全体として正当な争議行為であることを失わないというべきである。

(四)  ロツクアウト職場の侵入占拠について

疎明によれば、会社は四月五日に機械課の二四時間ロツクアウトを行い、前日より掲示及び通告をなし、かつ同職場に繩張をもうけたこと、ところが当月朝埼玉労組は申請人井上らの指揮のもとに約一時間同職場に侵入し、就業を要求したことが認められる。疎明によれば右ロツクアウトは熱処理職場のストライキの影響で機械課の充分な業務が不能との判断に基くものと認められ、一応正当性を有するものというべきである。したがつてそれにも拘らず実力で右職場に侵入した行為は正当な争議行為の範囲を超えたものという外はない。

しかしながら、右機械課職場は当日操業中の他の職場と同一建物の内にあつて、当日組合員は組合大会後スクラムを組んで建物内に入り繩をくぐり又は越えて職場に入り、機械を動かすよう要求したが動力スイツチが切断されていたため、これを断念して退去したものであつて、その行動につき会社側との間に格別の摩擦を生じたり或はこれにより会社に実害を与えたりしたことのないことが認められるので、ロツクアウト職場の侵入は不当性重大というに足りない。なお当日申請人井上は現場指揮者であつたが、申請人千々岩は本社に赴き不在であつて、右侵入に直接関与していないものと認められる。

(五)  無届の職場離脱、部分スト、デモ、集会について

労組執行委員の争議中の職場離脱、組合員の随時の離脱、デモ、集会の行われたことは前認定のとおりであるが、これらの行為は争議権の実施を委任された執行部の意思に基く争議行為と認めるのが相当であるので、正当性を有するものというべきであり、これを不当とみるべき特段の事情は認められない。

(六)  本社前座り込み、ハンストについて

本社前で座り込み及びハンストの行われたことは前に認定したとおりである。しかし、このような争議手段も暴行脅迫による業務妨害等別段の事態のない限り原則として自由になし得ることであり、会社が右により仮りに信用失墜などの損害を受けるとしても争議行為による結果として忍受する外なく、本件においてこれを不当視すべき特段の事情は認められない。

もつとも数名の組合員が玄関の建物の上にあがつたことは建物の支配を侵害したものとして正当な争議行為とはいい難い。

(七)  残業協定違反について

三月二九日午後六時半頃申請人井上ほか三執行委員が残業中の機械課員の残業を中止させ帰宅させたことは前に認定したとおりである。会社は右は組合の指令なくしてなされた山猫争議と主張するが、前後の経緯よりみると、執行部の意思に基く争議行為と推認するのが相当であつて、指令、統制に背いてなされたいわゆる山猫争議と認むべき疎明はない。また会社は残業協定に背くと主張するが、争議行為制限に関する特別の協定のない限り通常勤務の残業協定に反することは争議行為として正当になし得るところであり、当日の残業について争議協定が成立していたと認めるべき疎明もない。したがつて右行為は協定に反する違法な争議行為とは認められない。

(八)  熱処理職場メインスイツチ切断について

疎明によれば、四月三日熱処理職場においてストライキが行われ、その際同職場の動力源であり同職場内の金網で囲まれた変電室にある三〇〇〇ボルトのO・C・Bメインスイツチが切られたこと、右職場に申請人井上および片寄伊藤の三執行委員がピケのためおもむいていたことが認められる。しかし申請人井上らが自らの手で右スイツチを切つたことを認むべき疎明はなく、また切断約一時間後に会社がスイツチを入れたが、その間に会社側がスイツチを入れようと試みたことが認められず、その際に同人らが実力でスイツチを入れるのを妨害した事実はなかつた。なお右スイツチは高圧であるため電気係が扱うよう定められていることが認められるが、当日会社側は電気係でない磯部機械課長がスイツチを入れているところからみて、さほど危険な操作とは認めがたい。

従つて、申請人らに右に関する直接の関連が認められないのみならず、スイツチ切断自体も正当性のない争議行為というに足りない。

以上を要するに、会社の違法な争議行為と主張する事実のうち、本社玄関上での宣伝とロツクアウト職場へ侵入した行為をのぞき、正当な組合活動の範囲を超えたとみるべき事実は認められない。

七  不当労働行為の主張に対する判断

疎明によれば、被申請人会社は前記のすべての行為が違法な争議行為であるという前提に立ち、埼玉労組の最高責任者としての申請人両名を解雇し、また同時に申請人らのほか執行委員二名を解雇(ただし一名は依願退職扱いし、一名は後に撤回して処分を軽減した)、副委員長一名書記長一名を出勤停止一五日、昇給停止一年、執行委員三名を出勤停止一五日、昇給停止半年、執行委員五名を出勤停止一五日、組合員二名を譴責としていることが認められる。

しかしながら、前に判断したように解雇事由のうち本社玄関上とロツクアウト職場への侵入をのぞき、正当な争議行為の範囲を超えたと認めるべき事実がないのであるから、申請人らに対する解雇はこれを前提として判断されなければならない。

しかして、(イ)本社玄関上での宣伝とロツクアウト職場えの侵入は会社に対し格別の損害を与えたわけではないので(もつとも警備員の一名が足部に軽微の打撲を受けた)、これによつて短時間職場秩序を乱したことの非難を免れないというに過ぎず、悪質のものというに足りないから、このような程度の争議行為の指導者に対し懲戒解雇をもつて臨むことは現下の労働常識に照し甚だしく苛酷不当という外ないこと、(ロ)同じく会社の従業員により組織される本社労組、浜松労組に比して埼玉労組が要求について強硬であり、他の労組と異つて争議行為に突入しているので、埼玉労組の首脳部は会社から好ましくないと見られたと推認されること、(ハ)申請人らの処分にあたり、会社は本件争議を無目的、抜打争議と称して争議行為に入つたこと自体を特に強く非難していること、等を併せ考えると、会社は埼玉労組の強硬態度を嫌悪し、その団結を阻害する認識をもつて、埼玉労組の最高指導者である申請人ら強硬分子の正当な組合活動に対する不利益処分として本件解雇を行なつたものと認めるのが相当である。

よつて申請人らに対する解雇は労働組合法第七条第三号第一号に該当する不当労働行為であつて、労働関係の公序に反し無効といわねばならない。

八  結論

解雇が無効であるに拘らず、被解雇者として取扱われることは、労働者たる申請人らにとつて甚だしい苦痛損害を与えることは明らかであるから、仮処分の必要あるものと認め、本件申請を認容し、申請費用について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 西川美数 大塚正夫 花田政道)

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